見学会「2019年区民ライターツアー」

■開催日:2019年11月19日  ■場所:荻窪周辺・旅館西郊  ■講師: 吉村生さん・髙山英男さん(暗渠専門家)  平間美民さん(旅館西郊店主)

区民ライターの見聞を広めるため、今年も恒例のライターツアーを行いました。これは、杉並の名所や施設などを巡り歴史や文化に触れるツアーで、毎年1、2回開催しています。過去には環状七号線地下調整池の巨大トンネルや、郷土博物館の書庫を見学したほか、杉並清掃工場の160mある煙突に登ったこともありました。普段なかなか見ることができない区内のスポットを訪ねられると好評で、毎回多くの参加者があります。

今回は、2019年6月の区民ライター会議で見学先を決める意見交換を行い、専門家を招いての荻窪周辺の暗渠巡りと、国の登録有形文化財である旅館西郊を見学するコースに決まりました。また、2名の区民ライターがツアーコンダクターをすることになりました。

専門家と荻窪周辺の暗渠を巡る

当日、産業振興センター前に集合する頃には、心配されていた雨も小降りに。区民ライター・観光係・スタッフ含め、30代から60代の男女14名で、まずは暗渠巡りからスタートしました。講師は、『暗渠マニアック!』(柏書房)の共著などで知られる暗渠専門家の吉村生さんと髙山英男さんです。近年、NHKの「ブラタモリ」などのテレビ番組や雑誌で暗渠が特集される機会も増え、多くの区民ライターが関心を持っていたため、講師の解説に熱心に聞き入る姿が見られました。

●杉並区内には、廃止された川や用水路を暗渠化した場所があちこちにある

●荻窪駅北側には、かつて桃園川が流れていたが、1967年に暗渠化し桃園川緑道が整備された

●天沼弁天池が桃園川の水源の1つであった

弁天池のほとりにあった割烹旅館が天沼八幡神社に寄進した狛犬を見物した後、桃園川緑道を阿佐谷方面に進みながら、暗渠サイン(暗渠蓋、車止め、動物の路面ステッカーなど)の見つけ方も教わりました。参加者の中には、桃園川が流れていたことを知らなかった方もいましたが、わかりやすい解説のおかげで、「この細道も暗渠では?」と予想できるくらい、なかなかの目利きになりました。

次に、青梅街道を渡って荻窪駅南側に進み、今度は中央図書館や区立大田黒公園付近を探索。

●この辺りは、昭和30年代の宅地化が進むまで天水田圃と呼ばれる水田地帯が広がっており、その用水路が暗渠になっている

●北側の整備された桃園川緑道と違い、こちら側の暗渠は細道が多い

皆で一列になって家々の隙間を通ったり、近所の人が置いているのであろう大根の鉢植えを眺めたり、行き止まりから奥に続く藪を覗いたり。一人で入るのは躊躇する道も、講師の案内で巡ることができて、ちょっとした探検気分が味わえました。

暗渠が昔の杉並の地形を知る手がかりになることがわかり、参加した区民ライターからは、「吉村さんと髙山さんの案内で、今度は高円寺など区内にある別の暗渠も歩いてみたい」という感想が聞かれました。

なお、この暗渠巡りの様子は、ツアーコーディネーターを担当した区民ライターのRYOさんが、webサイト「すぎなみ学倶楽部」の杉並まちあるきコーナーの記事にまとめています。

https://www.suginamigaku.org/2019/10/ankyo-sanpo.html

昭和初期のレトロ建築、旅館西郊

約1時間の暗渠巡りは大田黒公園近くで終了。そこから徒歩3分ほど歩き、次の見学地、旅館西郊に向かいました。この建物は文京区本郷にあった下宿を1930年に移転したもので、木造2階建ての本館を旅館西郊、1937年に増築された新館を賃貸アパートメントとして、現在も経営しています。また、団体見学を事前予約制で受け入れており、三代目店主・平間美民さんがレクチャーしてくれます。

まず、西郊のシンボルともいえる青銅の屋根など、レトロ感あふれる外観を眺めたあと、アパートメントの内部を玄関のたたきから交代で見物。クラシカルな扉や階段が美しく、参加者はみな、思い思いのアングルで写真撮影を楽しみました。

次に、旅館西郊に場所を移し、平間さんから昔の西郊と荻窪の様子について話を伺いました。

●近くに近衛文麿が住んでいた荻外荘があり、西郊の前の道を使者が行き来していた

●昔から荻窪は中央線で通勤している人が多く、区内のぬかるんだ道を歩いた長ぐつを、駅で靴に履き替えて都心に出ていた

平間さんの話は歴史から日常生活まで多岐に渡り、区民ライターたちは熱心にメモを取っていました。

館内見学では、マントルピースのある部屋を見た参加者から「泊まってみたい」という声があがり、特徴ある船底天井や懐かしい調度品などに次々とカメラを向ける姿も。昭和初期にタイムスリップしたような気持ちになった後、大広間でお茶とお菓子をいただき、約1時間の見学が終了しました。

西近の建物については、2016年に区民ライターのとりのさんが取材し、「すぎなみ学倶楽部」で紹介しています。

https://www.suginamigaku.org/2016/11/seiko-lodging.html

ライターツアーを終えて

今回のツアーでは、暗渠巡りで地形をとおし、また西郊の館内見学と店主の昔話をとおして、荻窪の歴史の一部に触れられました。参加者からは「特徴のある暗渠を回れて楽しかった」「西郊の店主の話から得る情報が多かった」という感想や、「暗渠は下水になっており溢れることもある。身近なこととして考えたい」という問題提起も聞かれました。

また次回も、取材に活かせるツアーを区民ライターと共に計画し、開催したいと思います。